・国土創世
・性別のある神
さて,話は日本の国土創世へと移るのだが,国土を生み出した神はイザナギとイザナミの夫婦神である。特筆すべきことは,この神には性別がそれぞれ存在することである。何故,性別のある神が重要かというと,日本神話の多くの神はその母に当たる神から分娩される形で生まれるからである。
そもそも,天地開闢の場面で現れた神々は「成った」の表記されているように,母体から生まれたのではない。つまり,自然に成り出る形で生まれたということになる。
それでは,性別のある神が生まれたのはいつからなのだろうか。実は,イザナギとイザナミ以前にも,性別のある神は誕生している。
そもそも,天地開闢の場面で現れた神々は「成った」の表記されているように,母体から生まれたのではない。つまり,自然に成り出る形で生まれたということになる。
それでは,性別のある神が生まれたのはいつからなのだろうか。実は,イザナギとイザナミ以前にも,性別のある神は誕生している。
『古事記』によると,最初に生まれたアメノミナカヌシからイザナギらまで以下のような神が生まれたとされる。それらを列挙してみたが,どうやら8番目に現れたウヒヂ二・スヒヂ二の時から性別が存在するようである。
別天神(ことあまつかみ)
アメノミナカヌシから数えて五柱の神の総称。
①アメノミナカヌシ(最初に現れた神)
②タカムスヒ
③カムムスヒ
④ウマシアシカビヒコヂ
⑤アメノトコタチ
神世七代(かみよななよ)
クニノトコタチからイザナギ・イザナミまでの十二柱の神々の総称。⑥クニノトコタチ(『日本書紀』における最初の神)
⑦トヨクモノ
⑧ウヒヂ二・スヒヂ二
⑨ツノグヒ・イクグヒ
⑩オホトヂノ・オホトノベ
⑪オモダル・アヤカシコネ
⑫イザナギ・イザナミ
しかしながら,おそらく夫婦となり,交わったのことが明記されているのはイザナギ・イザナミの二神についてのみであり,他の性別を持った神が夫婦関係にあったかは分からない。但し,イザナミを含め,,女性と思われる神にはいずれも“妹”と記されており,それらの神が兄妹関係にあることが分かる。
・オノゴロ島
そして,イザナギとイザナミは日本の国土を創世することになる。だがその前に,オノゴロ島について取り上げておく。
オノゴロ島とは,日本の島の中でも例外的な生まれ方をした島であり,最初に生まれた島でもある。現在,このオノゴロ島が,日本列島のどこの島を表しているのかは分かっていない。有力なのが兵庫県の絵島(えしま),もしくは沼島(ぬしま)である。
『古事記』によると,イザナギとイザナミの二柱の神は,他の神々から国土を作りかためるように命令された。そこで二柱の神は天の浮橋(宙に浮いている橋の意される)に立ち,そこから神聖な矛を垂らして海面をかき回した。この矛は,他の神から与えられたものだとされる。
そして,その矛を引き上げてみたところ,先から滴った潮水が固まって水面に積もって島となったという。これがオノゴロ島である。
二柱の神はオノゴロ島に降り立って,そこに柱を立て,広い御殿を建設した。二柱の神はここで交わり島を創世する。『日本書紀』にも同じような内容が書かれている。
・ヒルコ,アハシマ
さて,オノゴロ島に降り立った二柱の神は,以下のようなやりとりをした。
まず,イザナギが「あなたの体はどのようになっているのか。」とイザナミに尋ねた。すると,イザナミは「私の体には成りあわない部分(女性器)があります。」と答えた。
イザナミはそれを聞いて,「私の体には成り余った部分(男性器)があるので,そこをあなたの成り合わない部分に差し込んで,塞いで,国土を創世しようと思うのだが。あなたは嫌ではないだろうか。」と言った。イザナミは「はい,それはいいですね。」と答えた。
このやり取りがあった後,二柱の神は,おそらく古代における結婚の儀礼のようなものを行った。おそらく,この儀礼についてはイザナギの方がよく知っており,それをイザナミに説明する場面がある。
この儀礼は,まず,夫婦が柱の周りを逆方向にまわり,出会ったときにお互いを褒め合うというものである。
しかし,イザナミはこの儀礼を作法を間違えてしまった。本来ならば,お互いを褒め合う際,男性の方から話しかけるという規則が存在したのだ。だが,女性であるイザナミは先に声をかけてしまった。
その結果,不完全な子供であるヒルコが生まれた。これは子供の数には入れず,夫婦は葦で作った船に乗せて流してしまった。また,次に生まれたアハシマも子どもの数には入れなかった。その後,これらの神がどうなったかは一切わからないが,ヒルコが漂流したとされる言い伝えを持つ神社は確かに存在する。
また,『日本書紀』が引用したとされる書物によると,イザナミとイザナミがある動物の行動を見て,夫婦の交わりの参考にしたと記されている。その動物は鶺鴒(セキレイ)である。鶺鴒が二柱の神の前に飛んできて,その頭と尻尾を振った。そこでイザナミとイザナミはそれを参考にして,その方法を知ったという。
また,ヒルコに関して,何故それが不完全な子であったかを知る記述も存在する。それは,“ヒルコ三歳になっても一人で立ちあがることが出来なかった”というものだ。すなわちヒルコは,おそらく異形の子でったことが推測できる。そもそも,ヒルコとは漢字で表すと“蛭児”,“蛭子”となり,手足がなかったのではないかと言われている。
ところで,このヒルコ,後の時代に意外な進化を遂げる。“蛭子”という漢字,“えびす”と読めないだろうか。そう,起源不明とされる民間信仰の神,七福伸にも数えられる福の神,エビスと同一視されるようになったのだ。だが,エビスと同一視されているなかで有力視されている神はこの他にもコトシロヌシ(後に解説予定)という神がおり,定説には至っていない。
・国生み
さて,話を神話に戻すが,ヒルコとアハシマが生まれた後,イザナギとイザナミの夫婦神は,高天原に登って他の神々に意見を求めた。
すると,その神々は太占(ふとまに:鹿の肩の骨などを焼いて行う,古代における占い)によって,やはり女神の方から声をかけたことが悪かったと伝えた。そこで,イザナギとイザナミは戻って,今度は男の神の方から声をかけて夫婦の交わりを行った。すると,今度はうまくいき,夫婦神は以下のような順番で国土を創世した。
『古事記』
①アワジノホノサワケノシマ(兵庫県の淡路島)
②イヨノフタナノシマ(四国)
③ツクシノシマ(九州)
④イキノシマ(長崎県の壱岐島)
⑤ツシマ(長崎県の対馬)
⑥サドシマ(新潟県の佐渡島)
⑦オオヤマトアキツシマ(本州)
⑧キビノコジマ
⑨ショウドシマ
⑩オオシマ
⑪ヒメシマ
⑫チカノシマ
⑬フタゴノシマ
『日本書紀』
①オオヤマトアキツシマ(本州)
②アワジシマ(兵庫県の淡路島)
③イヨノフタナノシマ(四国)
④ツクシノシマ(九州)
⑤オキノミツゴノシマ(島根県の隠岐)
⑥サドノシマ(新潟県の佐渡島)
⑦コシノシマ
⑧キビノコシマ
このように,史料によって順番は異なるもの,我が国の国土はイザナミの母体から生まれたのである。特に,『古事記』と『日本書紀』では本州が生まれたタイミング大きく異なっているが,これが何を意味するかは分かっていない。